PCR検査に4人で6万円。思わず耳を疑った。今年の夏、ハワイ旅行に行った時のことだ。国内では県が行っている事業により無料で受けることができたし、有料でもここまで高くはない。両親に話を聞くと、これでもハワイにしては安い方だと言う。気になったので、ハワイの医療費について調べてみることにした。
　私はテニスをしていて、肩を痛めることが多く、治療やリハビリのために病院によく通っている。もしもハワイで同じように病院へ通うことになったらどうなるのだろう。インターネットで調べると、早速、ハワイ旅行中に小学生の息子さんが骨折してしまった人の体験談が見つかった。なんと合計の医療費は480万円。レントゲンを撮るだけで40万円、救急車に乗っただけで10万円かかったそうだ。私の住む群馬県なら保険証等を見せれば医療費は無料で済むのに。父が旅行前に「1千万円以上の高額医療費にも対応できる旅行保険に入っておくよ。」と言っていた意味がようやく分かった。
　私は小学生の時に熱中症で救急車で運ばれたことがある。日本の学校では、命を守るために、心配な時は躊躇なく救急車を呼んでくれる。そのお陰で、後遺症もなく私は今、元気に過ごすことができている。ハワイだったらどうだろう。症状や怪我の具合と高額な経費をどうしても天秤に掛けざるを得ないのではないか。そして、その迷いが判断を遅らせ、取り返しのつかない結果をもたらすのではないか。そう考えただけで怖くなってきた。
　救急車でいうと、どうしても忘れられない話がある。私は幼い頃に、父の仕事の関係で中国に住んでいたことがある。これは、私の父が経験した話である。通勤途中に目の前で人が引かれて、かなり生命が危ない状態だった。すぐに100人ぐらいの人だかりができたが、誰一人、その倒れている人に近づかなかったという。父が慌てて救急車を呼ぼうと近づいたら、父の車の運転手に「呼んではいけない。呼んだ人が約2万円の代金を払うことになる。さらに、その2万円を自分にもよこせと多くの人が詰め寄ってきてあなたが危険になるから。」と言われて、車に連れ戻されたそうだ。この話を聞いた時、救急車が有料か無料かで、人々の心までが変わってしまうのだと、悲しい気持ちになった。
　努力をしてたくさんのお金を稼いだ人が、高額な高度医療を受けられるというのは一つの考え方だと思う。しかし、誰もが気兼ねなく救急車を呼べる、病院に行ける社会の方がずっと素晴らしいと私は思う。日本はそんな素晴らしい仕組みを持つ数少ない国の一つで、そんな国で暮らせていることの幸せを実感した。国民医療費の財源は主に被保険者が支払う保険料と公費、つまり税金からなる。みんなの心と体が健康であり続けるための処方箋「税金」の有り難さを再認識できた。