玄関のドアが大きな音を立てて開いた。母の慌てた声、そして「救急車呼んで！」という叫び。私は心臓が飛び出しそうなほど鼓動が早くなっていた。倒れたのは大好きなひいおばあちゃんだった。
　呼びかけても反応がない。その姿を見て、頭の中を最悪の「死」という言葉がよぎった。恐怖が胸の奥まで入り込んできた。
　すぐにサイレンの音が近づき、赤い光が窓を染めた。救急隊の人たちが駆け込み、迷いない手つきで処置を始めた。その姿は私にとってヒーローだった。
　数日後、ひいおばあちゃんは奇跡的に回復した。白い病室で私の名前を呼んでくれた瞬間、全身の力が抜けて涙が止まらなかった。あのとき、もし救急車が来ていなかったら。そう思うと今でも背筋が震える。
　その後、私は一つのことを考えるようになった。救急車に乗ること、病院で治療を受けること、薬をもらうこと。それら全てが税金で支えられているという事実だ。
　　「税金なんてムダ」「廃止しろよ」そんな言葉を耳にすることがある。だけど、あの朝の私にとって税金は“命を守る資金”だった。
　外国では救急車を呼ぶのに何万円もかかると聞いた。お金がないから救急車を呼べない。呼ぶことさえできない、そんな現実がある。それを知ったとき私は日本に生まれたことにそして税金で守られていることに心から感謝した。
　確かに、私が払っている税金なんてほんのわずかだ。だけどその小さな一部が、誰かの命を守る大きな力になっている。税金はただの数字じゃない。誰かの“生きてほしい”という願いが形になったものだと思う。
　あの日、ひいおばあちゃんの手をもう一度握れたのは、たくさんの人が納めてくれた税金と、それを生かす仕組みのおかげだ。税金は「無駄」なんかじゃない。むしろ「命を支えるみえない手」だと、私は自分の体験から胸を張って言える。
　これから大人になって働き、自分の税金を納めるときがくる。そのとき私は、あのサイレンの音を思い出すだろう。命には値札なんてつけられない。その真実を知った私だからこそ、税金を通して、誰かの命を守る側になりたいと思う。