祖母は強い人だ。トマト農家の祖父を支えている。広い家の敷地の一角の作業場の重量選別機の音と明かりは夜中になっても消えなかった。覗いてみれば祖母はまだそこにいた。優しい眼差しで作業する祖母は私には聞こえない心の声でトマトと話しているようだった。
　祖母は膝が悪かった。膝の手術をしても一向によくならない。心配になり、検査に行った。ALSだった。ALSとは運動神経細胞が徐々に死滅していってしまう病気で、体が動かなくなってしまう指定難病だそうだ。 父にそう説明をされても実感が湧かなかった。会いに行っても歩いているし、学校、部活、習い事のことだって話した。きっとこのまま悪くならない、そう信じた。
　祖母が転んだ。たまたま仕事中の祖父が気がつき、すぐに救急車を呼んでくれたため病院で治療を受けることができた。あまりうまく動かない足で石の階段を昇っていたらつまずいてしまったそうだ。もっと治療が遅れれば‥と考えたら救急車がどれだけ大切かを実感した。しかしそれからトラウマになってしまい、祖母は外に出なくなった。
　そこから祖母の具合は少しずつ悪くなっていった。とうとう左半身が動かなくなってしまった。入退院を繰り返し、桜の見える病室へお見舞いへ行くたびに祖母は
「元気なうちにお花見に行きたかったね。」
と言っていて私は苦しくなった。
　全身が動かせなくなってきて、喋りずらくなってきた時、できる限り家で暮らしたいという祖母の願いで家で生活することになった。お見舞いに行くと今までなかったベッドに車椅子、人工呼吸器などがあった。これらは公費負担制度を活用すれば、少額で利用することができるそうだ。調べてみると、公費というのは税金が使われており、その税金というものが農業では重要な水道や年金などのサービスの運用にも使われているそうだ。
　税金を払う事は国民の義務という事しか知らなかった。どうして税金を払い続けるのか考えてみた。今回、祖母が大変なところをこの目で見た事で分かった気がした。長く、苦しくて大変な治療を乗り越えるため、患者やその家族の事を一番近くで支え、助けてくれるのが税金であり、それを払う私達もどこかの苦しい人へ、ほんの少しだけれど協力できる一番の方法であること。顔も知らない国民同士が助け合っていると言うこと。
　祖母は私が会いに行くたび嬉しそうにしてくれる。私の食べる姿が好きで沢山食べる私をいつも見ている。私のお喋りに付き合ってくれるけれどうまく声が出ないのもあり、聞きとりにくい。でも私には全部分かるよ。みんな繋がっているから、みんなが繋いでくれるから。最後に祖母を、忙しい祖父を、私達を支えてくれてありがとう。